ジェンダーを語る場から、ジェンダーが地域に溶け込む場へ
菅原 亜都子
公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会 札幌市男女共同参画センター ダイバーシティ推進担当課長
約20年にわたり男女共同参画の現場に携わる。2022年よりNoMapsに参画。アンチハラスメントポリシーの策定や、ジェンダー平等の取り組みを表彰する「New Rail Award」の立ち上げなど、多様な視点を社会に実装するために奔走している。

記事のハイライト
「女性だけの問題」から「地域課題」へ
「ウェーイ」への羨望を原動力に
「いい話」で終わらせたくない、が次の一歩に
NoMapsは男性向けの祭りではなく、ジェンダーは女性だけが語るものでもない。
NoMapsに関わり始めたきっかけを教えてください。
最初に元NoMaps事務局長の廣瀬さんと話したのが、2022年が終わった頃だったと思います。「女性をもう少し巻き込むにはどうしたらいいでしょうか」という相談を受けたのが始まりでした。そのときNoMapsのことはもちろん知っていたんですが、正直なところ、イノベーションやテック系の話題が中心で、ちょっと「男性ノリの雰囲気」のイメージがあって。そうなると女性は少し入りづらいんですよね。
それでも関わることを決めた理由は?
苦手意識だけじゃなかったんですよね。羨ましさもありました。男性たちが仲間と一緒に何かビジネスを始めたり、ふざけながら真剣に議論したりしているのを見て、女性である私たちだってふざけたいんだ!と思っていました。
ジェンダーのことを仕事にしていると、どうしても「水を差す人」みたいに思われがちなんですが、そうじゃなくて、私たちだって楽しい場の中に入りたいし、その楽しさの中でジェンダーのことも一緒に考えてもらいたい。そういう気持ちを、最初に廣瀬さんに伝えた気がします。
ジェンダーのことを、女性が語る場はずっとありました。でも男性が自分ごととして語る場は少なかったのでそれをNoMapsで作りたいと思いました。実際セッションをもたせてもらった時のタイトルは「僕たちも考えてみたスタートアップとジェンダーのこと」でした。
結果的には女性ゲストもいたほうがいいということで構成を見直すことになりましたが、当日参加者は男性もたくさん来てくれましたし、高校生も来てくれました。第一回のあの景色は忘れられないですね。私のなかでも成功体験の一つになっています。

「いい話だね」で終わらせない。NoMapsが動かした地域の変化
NoMapsを通じて、何が変わったと感じますか?
一番印象的だったのは、アンチハラスメントポリシーが自分たちの想定を超えて広がっていったことです。最初、廣瀬さんは少し慎重でした。縛りすぎると嫌がる人もいるかもしれないって。でも作ることを決めて、浸透させるための工夫をみんなで考えました。これができたのは、NoMapsにすでに関わっていた女性たちがジェンダーの視点からに課題を感じていたおかげでもあると感じています。
どの瞬間に変化を感じましたか?
参加者の方がパスの裏にあるポリシーを指して「これいいよね」と言っているのを聞いたとき。それから、全く関係のない場所で、東京のスタートアップに関わるの人たちが「NoMapsがアンチハラスメントポリシーを作ったらしい」と話しているのを耳にしたとき。ちゃんと受け入れられて、広がっているんだって、すごく感動しました。
地域の社会課題に対しては何か変化は感じていますか?
ジェンダー平等に取り組む企業を表彰するプロジェクト『NEW RAIL(ニューレール)』の立ち上げが大きな変化だと感じています。
NoMapsで、サツドラホールディングス取締役代表の富山さんと登壇したときに「社長たちには表彰が効く。イケている若い経営者たちに向けてやることが大事だ」とおっしゃってくださって。ただセッションをして「いい話だね」で終わらせたくないと思っていた私にとって、すごく大きな後押しになりました。
NEW RAIL(ニューレール)
北海道におけるジェンダーギャップ(性別による格差)を解消し、多様な人々が自分らしく活躍できる未来を作るためのアクションを募集・表彰するプロジェクト

全国に男女共同参画センターはたくさんありますが、その地域のビジネスイノベーションイベントにちゃんと関わっているセンターは、少ないと思うんです。子育て支援や女性の小規模起業支援はもちろん大切ですが、男性たちが参加しているビジネスの場に、センターが当たり前に関わっていること。つまり既存の構造を変えるようなアクション。これができていることを誇りに思いますね。
登壇者も、参加者も。女性がNoMapsに当たり前にいる景色へ
これからNoMapsを通じて実現したいことは?
NoMapsの登壇者に女性が少ないという課題は、まだあります。その理由のひとつは、企画する側が「この分野には女性はいない」と思い込んでいること。もうひとつは、私たちの社会において女性たちが人前で話す機会そのものが、これまで少なすぎたこと。去年、特定非営利活動法人ミラツク理事の黒井さんに講師をお願いして、女性とユース向けの「話すトレーニング」をうちのセンターで開いたんですが、続けていきたいと思っています。
登壇者だけでなく参加者も同様。まだまだNoMapsは「起業家や経営者が行くもの」というイメージがあって、一般企業の人で特に女性にはまだまだ届いていないのが現状です。
次世代の女性リーダー養成研修も行っているのですが、そこに集まる企業の女性たちにとって、NoMapsのようなイベントは選択肢にすら入っていないと感じます。同じ志を持つかもしれない女性たちが、属性の違いや普段アクセスする情報の違いだけで分断されているのは、非常にもったいないですよね。
今後は研修参加企業にNoMapsへ社員を派遣しませんかって声をかけてみようかなと思っています。
ライフイベントによってキャリアの変更を余儀なくされることが多い女性こそ、本来は組織の外側に多様なネットワークや視点を持っている必要があると思っています。その役割にNoMapsがあるのは女性にとってとても良い刺激になるし、NoMapsにとっても力のある女性たちが参加することは質を高めることになるだろうと……
そのためには、NoMapsにはますます多様な人が安心して参加できるような場づくりを、関わる人全員で本気で進めていく必要がありますね。

ジェンダーも、世代も関係ない。「やりたいこと」は今すぐやってほしい
最後に、これからNoMapsに来る人たちへメッセージをお願いします。
最近はジェンダーギャップだけじゃなく、世代のギャップも大きいという問題もあると思います。女性がハラスメントで大変な思いをする一方、若い男性だって年長の男性からプレッシャーを受けているという現実があって。
「若いうちは経験を積んでから」とか、「やるにはまだ早い」とか、そういう言葉が足かせになってチャンスを逃してしまうのが、もったいないなと思っています。
若いから、女性だから、経験がないから先に何かを蓄えなきゃいけないなんてことは全然なくて、やりたいと思ったら今すぐやればいい。NoMapsにはそういう挑戦を応援する土壌があるはずだと思っています。
インタビューを終えて
ジェンダーという言葉をNoMapsに持ち込んだことで、地域にも確かな変化が生まれつつあります。育ってきたのは、「ジェンダーは女性だけが考えるものではない」という共通認識です。次のフェーズは、登壇者も参加者も、企業も起業家も、属性を超えた女性たちがNoMapsで出会い、その変化が地域に溶け込んでいく段階。男女共同参画センターとイノベーションの場が共に歩む、その先が楽しみです。
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