「最強のパーティー」はこう作る。異分野協働で切り拓く、イノベーション設計

川村 秀憲

NoMaps実行委員会 副委員長

記事のハイライト

  • 最強のパーティーを作るため、あえて新しいコミュニティへ

  • NoMapsから北海道全体へ、そして全国へ――温故知新のテクノロジーの拡がり

  • 生成AIが普遍的になった今こそ、NoMapsでの「Weak Ties」が重要に


最強のパーティーを作るため、あえて新しいコミュニティへ

NoMapsとの関わりのスタートを教えてください。

僕って、大学の先生としてはすごい変わってると言われるんですよね。年間6〜700枚ぐらい名刺交換をするんですよ。 毎年それくらい新しい出会いがあるんです。 そのほとんどが大学の先生じゃない方なんですよね。

たまたまそうなってるっていうわけではなくて、意図的にそういう立ち振る舞いをやっているんです。そういったところからNoMapsとの関わりも始まったと記憶しています。最初の段階から実行委員をやらせてもらいました。

意図的に新しい方と出会うようにしているのは、どういった考えからなのでしょうか?

アメリカの社会学者グラノヴェッターの「The Strength of Weak Ties」という理論ですね。成功者の方たちに成功のきっかけを調査したところ、強いつながりよりも、「Weak Ties」つまり、顔見知り程度の弱い紐帯が人生に大きな成功をもたらすということを発見した、というものです。

具体的には、大学という環境が強いつながりだと言えますね。研究分野が近い人が集まっているので、知識や経験も似通っている。だから、何か新しいことを生み出そうとしてもなかなかうまくいかない。

逆に、知ってる情報も専門も違う、課題に感じていることも違う人たちが集まることで、お互いが持っていないものを相互に交換できて、より大きなイノベーションにつながるということが研究結果として明らかになったということです。

それを知っていたからこそ、教授になった頃に研究者コミュニティとは違ったところにネットワークを作っていこうと考えたんですよね。

例えるなら、ドラクエ®のパーティーでしょうか。強いパーティーを作るには、バランスが大切。専門や得意分野が同じだったら、バランスがすごく偏るわけですよね。

何か新しいことをやっていくときには、そういったバランスのいい仲間作りがすごく大事だなと思っています。

考えてみると、NoMapsって分野もジャンルも違う人が集まる場なんです。そこで仲間を見つけてバランスの良いパーティーを作る、そういう役割を担ってるイベントなのかなと。

では、そのように学外での活動を続けていらっしゃる中で、根底にある課題意識についても教えてください。

スタートアップを立ち上げることのハードルの高さですね。 市場がまだまだ小さいと感じています。市場が大きいところであれば成り立つものも、北海道では成り立たないということも多いですよね。

北海道の中心産業って、やっぱり農林水産と観光。もちろんそれぞれの産業に課題はいっぱいあるんだけれど、それがテクノロジーやスタートアップの力を通して解決できるかというと、やっぱり難しい面もある。 要は儲からないってことですね。

そういった観点で考えると、NoMapsでそういう課題にスポットを当てて、ディスカッションしたりとか、もしくはその中での先進事例を紹介しあったりする動きがあるということによって、良いインパクトがあるのではないかなと思っています。

産学連携という点ではどうでしょうか?

“学”側の動きが、まだ弱い感じはあります。

でも当初から比べると、ちょっとずつ大学の先生も参加するようになってきているとも感じています。

大学の研究者が、実課題やスタートアップなどに触れることで、大学の研究成果が出てくるとか新しい研究テーマが生まれるとか。そういうことがNoMapsきっかけで生まれつつあるのかなと思います。

やっぱり、産学が混ざり合う場って、なかなかこれまで札幌になかったと思うんですよ。 それが混ざり合うことで、新しいチャンスが生まれるとすごく良いですよね。

NoMapsから北海道へ、そして全国へ――温故知新のテクノロジーの拡がり

あなたの “#NoMapsのおかげ(NoMapsをきっかけに生まれた価値や変化)” を教えてください。

開発に関わった俳句を生成する人工知能「AI一茶くん」を、多くの方に知ってもらうきっかけになったことです。

最初は研究室内のみでやっていたプロジェクトだったのですが、インタラクションを大事にしたいということで、NoMapsのブースを少しお借りして、地下歩行空間でデモの様子を展示しました。

「何かお題を与えてくれれば、一句読みます」という形で、多くの人に参加していただきました。その様子が北海道のローカルニュースで流れたんです。

それをきっかけに全国的なテレビ局から声をかけてもらい、俳句名人とAI一茶くんが俳句の勝負をする、といった企画に参加することになりました。

NoMapsで披露したものより精度を上げて収録に臨みましたが、勝負にはあえなく惨敗。しかし、対戦相手だった俳句名人の皆さんとの交流が生まれ、より精度を上げるためのアドバイスをいただくことで、ファインチューニングにもつながりました。

AIがまだ広く知られる前のことですね。

そうですね。だからこそ、またその番組をきっかけに多くの番組から声をかけてもらいました。"最近、生成AIがすごいらしい"といった切り口が多かったように思います。

今でこそ生成AIは多くの人に知られるようになりましたが、当時は一般の方に全然知られていないものでした。

NoMapsでの展示が少しでも多くの人に生成AIというテクノロジーを知ってもらう契機になればな、とは思っていましたが、ここまでメディアに取り上げられるとは嬉しい誤算でした。

さらに、さまざまな方とのコミュニケーションを通して、アウトプットの質が格段に向上したことも、研究にとって大変重要な意味を持ちました。

そういったたくさんの可能性を秘めているのが、NoMapsの面白さですね。

生成AIが普遍的になった今こそ、NoMapsでの「Weak Ties」が重要に

NoMapsを通じて、今後実現したいことを教えてください。

NoMapsを、もっと国際的なイベントにしていきたいです。北海道は多くの方にとって、訪れたい、憧れの場所です。

日本国内だけではなく、アジア、最近はオーストラリアからも多くの観光客が訪れています。そういった地の利を活かして、札幌の人のためのイベントではなく、世界の人が訪れるイベントにしたいと考えています。

SXSWのような、全世界から人が集まるイベントにしたいです。

NoMapsを担っていく次世代のスタッフや参加者に向けて、メッセージをお願いします。

生成AIがどんどん発展していくことで、社会は大きく変わっていきます。電気ができる前と後、車ができる前と後、そしてインターネットができる前と後の社会だって、まるで違う世界になりました。

この変化する状況の中で、新しいものが出てくるのはすごく大事だと思うんです。つまり、生成AIがなかった時代に作られたものを、生成AIにどうにか適応させるのではだめなんです。

生成AIがあるということを前提として、ゼロ→イチで物事を考える必要があります。それがスタートアップや新しいことを始めるということだと思っています。

見方を変えると、面白みでもありますよね。

そうですね。違う見方をすると、様々なことへの参入障壁が崩れているとも言えます。

例えば、これまでの音楽産業は、楽譜が読み書きできて楽器が弾けて、歌が上手くないとビジネスに参入できませんでした。

だけど今は、生成AIでいくつも曲を作って、一番いい曲を自分が作った曲ですって言えちゃうわけです。 楽譜なんて読み書きできなくていいし、歌えなくたっていい。生成AIを使いこなすことによって楽曲が作れるんです。

そう考えると、今のゼロ→イチの"ゼロ"って、これまでとは全然違う状態なんですよね。

このタイミングだからこそ、NoMapsというイベントが知立としてうまく乗っかっていくのではないかと思っています。

生成AIは、効率化、楽をするためのツールだと思われがちですが、逆に色々なことを難しくしてしまう危険性を考慮しなくてはいけません。みんなが一定基準のことをできてしまうからこそ、それを超える自分の価値を生み出していかなくてはいけない。

そういうときに「Weak Ties」が役に立ってくるのかもしれません。

インタビューを終えて

同質な集まりは、心地が良いものだ。

ただ、“革新”を求めるときには一歩踏み出すことが必要なのかもしれない。

特に"革新”の前提条件が目まぐるしく変わる今、自分とは違うだれかに意識的に出会いに行くことが、イノベーションの大きな鍵になるに違いない。

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