【失敗が許される場所】NoMapsが育てた「実験の文化」と地域へのインパクト
木村 琴絵
株式会社 Hokkaido Design Code代表取締役社長/NoMaps 釧路・根室実行委員会 実行委員長

記事のハイライト
専業主婦から社会へ──「悲観しなくていい」と気づいた個人の10年
NoMapsが組織と地域に残した文化
実験の場を次の世代へ
専業主婦から社会へ──「悲観しなくていい」と気づいた個人の10年
NoMapsが10周年を迎えたいま、最も強く意識している北海道の社会課題は何ですか。
10年前というと、私がちょうど専業主婦から社会に出た頃でした。子どもを産んだあたりから、釧路のまちでデパートがなくなったり、空き店舗が増えたりして、衰退と呼ばれるものを身近に感じるようになりました。それまで、まちが衰退するなんて、あまり考えたことがなかったんです。
社会に出てから人口減少や一次産業の課題を知りましたが、同時に「あまり悲観的にならなくていいんだな」という実感も持つようになりました。人が減ること自体は、もう決まっている。その前提に立って、じゃあ何をするかを考えることが大事だと思っています。
北海道は物理的な距離やインフラの課題が大きい地域です。でも一次産業も多く、可能性もたくさんある。そこにテクノロジーが入ることで、できることはまだまだあると感じています。
NoMapsと最初に出会ったきっかけは何でしたか。
SXSWに行ったことが大きかったです。街全体がイベントを受け入れていて、老若男女、本当にいろんな人が関わっている。「まち丸ごと受け入れてくれる」感じがすごくよかったんですよね。イベントというより、街の営みの一部に見えました。
カンファレンスって、会場の中だけで完結するものだと思っていたんですが、外にも広がっていて、関わり方も一つじゃない。その体験があったから、NoMapsを見たときに「北海道でも、もしかしたらSXSWのようなことができるかもしれない」と思いました。
SXSW……米国テキサス州オースティンで毎年開催されている音楽祭・映画祭・インタラクティブフェスティバル
NoMapsには、どのような立場で関わってきたのでしょうか。
最初は参加者でした。その後、協賛セッションを出すようになり、登壇する立場にもなって、今は実行委員として関わっています。
当時は、協賛のハードルがとても低くて、東京の企業もまだあまり注目していない時期でした。規模が大きくなくても、ここに出ていく意味はあると感じていました。
実行委員に入ったのは、女性の実行委員を増やそうという動きがあった3年ほど前です。そこからは、ずっとカンファレンスに関わっています。

NoMapsが組織と地域に残した文化
実行委員として関わる中で、印象に残っている変化はありますか。
一番大きいのは、「見える景色が増えた」ことです。
NoMapsに関わると、普段なら出会わない人や、聞けない話に触れる機会が本当に多い。自分の中の前提が揺さぶられる感覚があります。
課題の設定の仕方や、セッションの作り方もそうです。ただ盛り上げるだけではなく、社会課題をちゃんとインプットしてくれる。楽しいだけのイベントではない、という実感があります。
続けることの大変さと、それでも続いている理由は何だと思いますか。
正直、毎回大変です(笑)。
時間もリソースも足りないし、失敗だと思うこともたくさんあります。それでも、終わった直後は「もう無理」と思っているのに、気づいたら「来年もやろう」と考えている。
失敗しても許される実験の場所だと感じているからだと思います。そもそも、失敗がない、という感覚に近いのかもしれません。
ハラスメント対策チームに入り、アンチハラスメントポリシー策定にも関わったとお聞きしました。取り組みについて、どんな変化を感じていますか。
掲げるだけなら、正直どこでもできると思います。でもNoMapsは、ちゃんと考えて、真面目に発信している。課題の大小に関わらず、嫌なことがあったら伝えていい、という空気が少しずつできてきました。
イベントでアンチハラスメントポリシーを立ち上げて、ここまで対応しているところは、まだ多くないと思います。ジェンダーギャップが最低水準と言われる北海道でこれをやることには、意味があると感じています。
ジェンダーギャップの話が出たので、ジェンダーバランスに関してのお考えも教えてください。
ジェンダーバランスについては、登壇者がどうしても男性中心になりがちな現状があります。集客面での不安はありますが、登壇に不慣れな女性が登壇する機会を作らなければ経験も評価も生まれません。
今回、女性登壇者や若手の枠を設けようという提案があったのはとても意義深く、思い切って挑戦できる運営メンバーがいることは大きな強みだと感じています。こうした取り組みが、今後さらに広がっていくことを期待しています。
NoMapsは、地域や企業にとってどんな価値を持ち始めていると思いますか。
最近は「NoMapsに出たい」「関わりたい」という人が増えてきました。東京の企業が、北海道との接点としてNoMapsを選んでくれることもあります。
仕事は結局、人からしか生まれません。ここで一緒にプロジェクトをやることで、自分たちが何ができる会社なのかを知ってもらえる。金額では測れない価値ですが、とても大きいと思います。

実験の場を次の世代へ
次の10年に向けて、必要だと思う導線は何でしょうか。
いきなりNoMaps本体じゃなくてもいいと思っています。学校や地域でのミニNoMapsのような形があってもいい。
学生や子どもたちが関わることで、大人が楽しんでいる姿を自然に見せられる。小さい頃から触れることで、「あれに関わりたい」「スタッフをやってみたい」「登壇してみたい」と思う人が出てくるかもしれません。NoMapsをもっと身近に感じられる仕組みが必要だと思います。
これから関わる人たちへ、伝えたいことはありますか。
関わり方は一つじゃないです。旗を振ってもいいし、支える側でもいい。とりあえずやってみる、失敗しても許される場所だと思っています。
毎年「もっと早く動けばよかった」と言いながら、結局またやっている(笑)。それでも終わったときに「成功したね」と言えているのが面白いところです。NoMapsでしかない感覚があると思うので、ぜひ自分ごととして関わってみてほしいですね。
インタビューを終えて
人口減少やインフラの課題を抱える北海道で、NoMapsは「悲観しなくていい」という視点を静かに共有してきた。
失敗してもやってみることが許される。
その空気は、個人の行動だけでなく、組織や地域の関係性にも少しずつ影響を与えている。
次の10年、NoMapsは形を変えながら、挑戦する大人の姿を次の世代へ手渡す場であり続けるのだろう。
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