「未完成の街」を一緒につくる。札幌市と共に歩んだNoMapsの10年の変化

浅村 晋彦

札幌市 まちづくり政策局長

1967年生まれ、幕別町出身。北海道大学文学部卒業後、1989年に札幌市役所入庁。外務省派遣などを経て、新幹線推進室長兼空港担当部長、まちづくり政策局政策企画部長、デジタル戦略推進局長を歴任し、2024年より現職。2010年に北海道大学大学院(観光創造専攻)修了。「札幌市まちづくり戦略ビジョン」策定に第1次・第2次で携わる。

記事のハイライト

  • 経済視点だけでは届かない領域へ。NoMapsが踏み込んで歩んだ10年

  • NoMapsを軸に、都市と地域のプレイヤーが混ざり合う

  • 未完成の街を面白がれる文化を醸成していく


経済視点だけでは届かない領域へ。NoMapsが踏み込んで歩んだ10年

立ち上げ当初に思い描いていた姿と比べると、NoMapsは「予想していなかった10年後」にたどり着いたと、浅村局長は振り返ります。

NoMapsスタート当初は、札幌市が行政予算で一定程度伴走してきましたが、現在は企業協賛や事業収益、ふるさと納税として札幌市に寄せられた寄付など多様な資金を組み合わせながら運営しており、取り組みとしての自立性が高まりつつあります。

「始めた当初は本当に続けられるのかという不安もあった」と浅村局長。それでも10年、札幌市として「NoMapsを続けてきたこと」をどのような意味として捉えているのか、お話を伺います。

10周年という節目を迎えました。その中で札幌市の中の社会課題に対してNoMapsが果たしてきた役割、どんな変化を生み出したのかについて聞かせてください。

NoMapsが始まった当時は、「クリエイティブシティ」という流れの中で、テクノロジーをビジネスにつなげたり、新しい技術を紹介する“ショーケース”になったりする役割が中心でした。

大きな転機になったのは、コロナ禍を経てリアル開催を再開した年です。単に経済の視点だけで語るのではなく、「社会のあり方」そのものに目を向ける議論が増えました。

その結果、テクノロジーを社会の中でどう使うか(社会実装)や、経済と市民生活をより自然につなぐこと(シームレス化)に、NoMapsが踏み込めるようになったのが変化してきた部分だと思います。

個人という視点でお話を聞いてみたいのですが、NoMapsの活動を通じて浅村さんご自身にどのような変化が生まれたでしょうか。

NoMapsは活動の幅もテーマの幅も広がっているので、市役所の中で自分が担当している領域と重なる部分が非常に多いです。その結果、すでに一歩先を進んでいる人たちと対話できる機会が増えました。個人としても、組織としても、「一緒に進められるパートナーができた」という感覚があります。

すべての取り組みに参加できているわけではないのですが、NoMapsの場でどんな挑戦が行われているのかを知るだけでも、こちらが乗り越えるべき課題が出てきたときに「ここから解決の糸口が生まれるかもしれない」と思える。NoMapsがソリューションを生み出してくれる可能性があることは、安心感につながっています。

NoMapsを軸に、都市と地域のプレイヤーが混ざり合う

札幌市役所の中でNoMapsがもたらした行動変容だったり雰囲気の変化、姿勢の変化があれば教えてください。

まだ道半ばではありますが、NoMapsは当初の「産業振興・企業支援」といった枠を超えて、扱うテーマや関わり方が広がってきました。

庁内の部局の関わりが増えるにつれて、「都市全体の戦略」をNoMapsの場で議論したり、課題解決の糸口を探ったりする流れが、少しずつ見えてきました。今後さらに、NoMapsが“都市全体の取り組みを支える基盤”になっていく可能性がある。そう感じられる段階に入ってきたと思います。

全庁的にNoMapsを受け入れながら、行政だけでなく官民一体で施策を展開していく。そのための土台が芽生え始めている、という感覚です。

「官民連携」をテーマに、2025年からスタートしたNoMaps GOVERNMENTの様子

地域の変化を感じる何かしらのエピソードや事例があれば教えてください。

スタートアップは、1社だけで成長するのではなく、支える人材・資金・企業・行政などがつながる「エコシステム」として動かしていく必要があります。そうした流れの中で『STARTUP HOKKAIDO実行委員会』ができ、業界や立場を超えて人が交わる場面が増えてきました。

この変化をNoMapsだけの成果だと言い切ることはできませんが、NoMapsで積み重ねてきた議論や交流の“下地”があったからこそ、新しい動きが生まれやすくなり、背中を押した部分はあると思っています。

未完成の街を面白がれる文化を醸成していく

今後のNoMapsを通じて、個人として、札幌市として、まちづくり政策局として、どんな挑戦をしてみたいですか?

昭和の頃、札幌市は最上位のまちづくり計画(長期総合計画)で「先駆的な実験を継続する」というスローガンを掲げていました。実際に、地下鉄をゴムタイヤで走らせる仕組みを採用したり、スパイクタイヤの使用をやめたりと、フロンティア精神で新しい挑戦を重ねてきた歴史があります。

一方で今は、そうした「先駆者としての気概」が少し弱くなっているのではないかという危機感もあります。だからこそNoMapsを通じて、未来を先取りする「実験都市・札幌」をもう一度取り戻したいと思っています。

さらに多様な仕掛けをつくり、実際に試しながら前に進む挑戦を増やしていきたいです。

具体的にどんな実験や仕掛けをしてみたいですか?

まちづくり政策局の立場で見ると、「街の空間をどう使い直すか」は大きなテーマです。使い方が変われば、道路や公共空間などインフラのあり方も一緒に変えていく必要があります。

そのためには市民の理解が欠かせませんが、新しい技術があれば実現の幅も広がります。だからこそNoMapsの場で、実証実験のように試しながら「街の使い方の常識」を更新していけると面白いなと思います。

都市型カルチャーファーム「SAPPORO CULTURE FARM / 凹場 anaBa」
北海道ビル跡地(中央区北1西4)に誕生した新たな実験拠点。公民連携のモデルとして、農・文化・アート・観光など、多様な領域が交差する取り組みを推進している。

次の世代に対して、メッセージをいただきたいと思います。

NoMapsが大切にしているのは、「私たちは完成された街に住んでいるのではなく、未完成な街を面白がりながら、自分たちでつくっていく」ということだと思います。課題先進都市である札幌も、用意されたサービスを受け取るだけの場所ではなく、街をよりよくするために手を動かしていく舞台だ、という感覚です。

だからNoMapsは、そうした思いを持つ人たちが集まる場でありたい。名前の通り、「地図のないところに踏み出し、自分たちで地図を描き直していく」ための場所です。

若い人たちがクレイジーなアイデアを持ち寄り、熱量をぶつけ合う。そのエネルギーは、行政にとってとても心強いものです。だからこそ、その動きを受け止めながら、一緒に前に進めていきたいと思います。

インタビューを終えて

産業振興という枠を超えて、いまNoMapsは部局を横断しながら都市の課題を持ち寄る「基盤」になりつつあります。この10年で育ってきたのは、「未完成の街を一緒につくる」という文化でした。

次の10年は、その文化を実証や社会実装につなげ、市民の暮らしの中で“手触りのある変化”として返していくフェーズです。行政も民間も共に一歩ずつ前に進んでいくことになるでしょう。

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