【音楽を“仕事”にする文化をつくる】 NoMapsが育ててきた札幌の音楽エコシステムと、次世代への動線
村田 雅宏
株式会社ウエス ディレクター 、株式会社commons fun プロデューサー
NoMaps Music、Radio 担当
札幌を拠点に、空き地や公共空間を活用したプレイスメイキングや都市実験を行う。
「札幌をもっと面白く」をコンセプトに、音楽・ゲーム・スポーツなど多様なコンテンツを通じて、人と街、文化が交差する場づくりを実践。都心部の遊休地活用やイベント企画、コミュニティ形成を通じて、新たな都市の価値創出に取り組んでいる。
NoMapsでは 「2016年よりNoMaps音楽部門を担当し、イベント企画・制作を通じて札幌の音楽文化形成に携わる。「全道高等学校軽音楽大会」の創設に関わり、10年以上にわたって次世代アーティストの育成と地域文化の基盤づくりを推進してきた。

記事のハイライト
NoMaps音楽部門の原点と、札幌の音楽シーンへの違和感
若い世代の挑戦が育てた、地域音楽エコシステム
次の10年へ向けた、音楽文化と参加のかたち
NoMaps Musicの原点と、札幌の音楽シーンへの違和感
NoMaps10周年という節目に、最も強く意識している北海道の社会課題と、NoMapsが果たしてきた役割について教えてください。
北海道は、「自然が豊か」「食べ物が美味しい」とよく言われますが、それは外側から与えられた評価だと思っています。自分たちが見つけ、育ててきた文化や魅力という点では、まだ十分にブランディングできていないのではないか、と。
NoMaps立ち上げ時は、SXSWをロールモデルに、音楽や映画といったカルチャーを「消費」ではなく「産業」として捉えることを意識していました。
アーティストやクリエイターだけでなく、事業者にとっても意味のある場をつくる。そのために、国内外のアーティストを招きながら、「夢チカライブ」や「IMPACT」、個人主催の「otototabi」、ウエスの社員と連携した新規イベントなど、多くの人が関われる形でNoMaps音楽部門を展開してきました。
NoMapsの活動を通して、ご自身にどんな変化がありましたか?
音楽業界の中だけでは出会えなかった、異業種の人たちと出会えたことで、物事を見る視点が大きく変わりました。当初思い描いていた形とは違っても、「NoMapsがなければ生まれなかったもの」は本当にたくさんあります。
そもそもの原動力は、北海道出身のアーティストが、活躍するほど東京へ行ってしまう現状への強い違和感でした。
NoMaps以前に立ち上げた「SAPPORO NEUTRAL」も、札幌のアーティストだけで約100組が出演する、完全に地元にフォーカスしたイベントでした。
「ニューオリンズ」や「デトロイト」のように、街の名前で音楽を連想できる場所に、札幌もなれたらいいですね。原産地で終わるのではなく、この街で成長し、街にコミットしながら国内外で活躍できるアーティストが生まれる土壌をつくりたいという想いが根底にあります。

若い世代の挑戦が育てた、地域音楽エコシステム
NoMapsへの投資は、「ビジネス」と「地域貢献」を両立できていると思いますか?
NoMapsの活動そのものが、すでに地域貢献だと思っています。人やお金といったリソースを投資した結果が、次のビジネスにつながるのであれば、この二つは十分に両立できる。
その象徴的な成果の一つが、「全道高等学校軽音楽大会」です。
高校生が主役になる音楽イベントを立ち上げたいと考え、北海道高等学校軽音楽連盟の先生方と一緒に始め、10年間続けてきました。
高校生の軽音楽大会は、どのような背景から生まれたのでしょうか?
大会は、NoMapsの0回目のタイミングで始まりました。 当時、軽音部は文化連盟に正式に認められておらず、目指す大会もありませんでした。以前はヤマハ主催の「ミュージックレボリューション」という大会がありましたが、民間主導だったため突然終了してしまった。
その結果、高校生たちは目標を失い、部活としての存続すら危うい状況だったんです。
そこで、平岡高校の先生(当時の連盟代表)と話し合い、「まずは5年間一緒にやりましょう」と大会を立ち上げました。
現在では、軽音楽部の人数は北海道全体で明らかに増え、苫小牧・石狩地区だけでも1,000人を超えています。文化系の部活が減少する中で、これは異例とも言える数字です。
大会に出場したバンドから、メジャーデビューするアーティストや、有名アーティストのバックバンドで活動する人も生まれています。この大会は、一過性の流行ではなく、「文化になった」と言えるものになったと思います。
地域全体では、どのような定性的な変化を感じていますか?
NoMapsが直接関与していなくても、「SAPPORO PLACEMAKING LABO」や「えぞ財団」「U35-SAPPORO」など、業界の垣根を超えて横につながる動きは確実に増えています。
「SAPPORO CULTURE FARM anaBa/凹場」のように、暫定利用の空間を活用し、映画や音楽、食が楽しめる“公園のような場所”が生まれたのも象徴的です。
NoMapsが他団体と連携することで、都心に新しい価値が生まれ、地域のエコシステムが少しずつ変化してきたと感じています。
その一方で、札幌では地元の音楽が評価されにくい背景もありますね。
札幌は、長く「東京のお金で回っている街」だったと思います。地元のものは「田舎のもの」、東京基準で測られないと評価されない、という空気がありました。東京から来た人の方が信用される、という感覚は、今でもどこかに残っていると思います。
沖縄には、地元のアーティストを地元が誇り、応援する文化があります。ORANGE RANGEがリリースすれば、コンビニでも曲が流れる。音楽が「自分たちの文化」になっているんですよね。
飛び抜けた存在が地元にいることは、文化を変える大きな力になります。札幌でも、そうした存在を育てられたらと思っています。

次の10年へ向けた、音楽文化と参加のかたち
今後、NoMapsを通じて挑戦したいことは何ですか?
一番やりたいのは、音楽そのもののステータスを上げることです。若い頃、「音楽をやっています」と言うと、必ず「仕事は?」と聞かれるのが本当に嫌でした。
良い音楽を作っても、生活につながらず、評価されないまま消えていく人がたくさんいる。その状況を、何とか変えたいと思っています。
目指しているのは、沖縄のように、音楽が文化として根づいている状態です。NoMapsとして、音楽そのものが正当に評価され、価値を持つ環境をつくっていきたい。
その一つの方法として考えているのが、「称賛する仕組み」です。ちゃんとした審査員を招き、無名であっても優れたアーティストを選び、ただ称賛する。それでいいと思っています。
映画祭では、ローカルな賞をきっかけに仕事が生まれ、映像で生計を立てられるようになった人がたくさんいます。音楽でも、同じ現象が起きてもいいと思います。
NoMapsのタイミングで賞を発表し、コメントをもらうだけでも、アーティストにとっては確かな価値になるはずです。無名でも、何らかの肩書きや評価が得られる仕組みをつくりたいですね。
最後に、次の10年へ向けて、未来の参加者や、まだ関わっていない人へメッセージをお願いします。
NoMapsは間口を広く開いているつもりですが、身内感が強くて入りづらいと感じる人もいると思います。でも、少しでも「何かやってみたい」と思ったら、まずは事務局に連絡してほしい。
新しいイベントをつくることよりも、今ある枠組みをどう活かすかが大事だと思っています。NoMapsには、すでに人も、場も、実績もある。
どんな挑戦も、最初の一歩が一番大切です。未来を想像して、自分が叶えたいことのために一歩踏み出してほしい。NoMapsは、その一歩を受け止める場所であり続けたいと思っています。
インタビューを終えて
地域として、音楽が文化として根づき、評価され続ける土壌を次世代へ手渡していく。
NoMaps Musicが目指しているのは、短期的な成功ではなく、10年後・20年後も「音楽で挑戦できる街」であり続ける札幌の姿だ。
称賛し、評価し、仕事へとつなげていく。
NoMapsはこれからも形を変えながら、音楽が消費で終わらないための動線を、静かに増やし続けていくだろう。
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