【“街のエネルギー創出”をテーマに】行政イベントから持続可能な共創プラットフォームへ

廣瀬 岳史

NoMaps実行委員会 事務局長

大学卒業後、民間企業を経て民間シンクタンクに入社。以降10年に渡り、道内自治体の政策立案や地域活性化事業の運営等に従事。その後、現場により近いまちづくり系の会社に籍を移して、地域活性化や地域人材育成事業の企画・運営などに携わる。
2016年、NoMapsの前身の一つである札幌国際短編映画祭関連の調査業務に携わったことを契機に、NoMapsに立上げから参画し、産官学の多様な主体が関わる事業の調整役を担う。

記事のハイライト

  • “面白いことになりそう”からのスタート。

  • カテゴリー拡大がもたらした変化ーーコミュニティが自らNoMapsを背負うまで

  • 街への投資としてのNoMaps


“面白いことになりそう”からのスタート。

NoMapsを立ち上げたきっかけを教えてください。

最初は、巻き込まれましたね(笑)。

民間のシンクタンクで働いていたときに、10年以上札幌市の仕事を担当させていただいていたんです。その中で、NoMapsの前身の一つである「札幌国際短編映画祭」の調査業務をすることになりました。その時はそのイベントを“SXSWのようなイベントに変えていきたい”という要望をいただいていたと思います。

※SXSW……米国テキサス州オースティンで毎年開催されているあらゆるジャンルのインディーズの見本市

その話を聞いたとき、率直にどう感じたのでしょうか。

「面白いことになりそう」と直感しました。

そして、実際にSXSWを現地で視察させていただいたときは、衝撃を受けましたね。人口100万人前後の札幌よりも小さな規模の街に、新しいことに挑戦する人たちのポジティブなエネルギーが集って、街の見え方を変えている。これが札幌で実現できたら、どれだけ素敵だろうと。

だからこそしっかりコミットしたいという想いも生まれ、会社を辞めて、フリーランスとして独立した上でNoMapsにしっかりコミットすることにしました。40歳という節目でしたね。

カテゴリー拡大がもたらした変化ーーコミュニティが自らNoMapsを背負うまで

そこから10年に渡って走り続けてきた根底にある、最も強い課題意識は何ですか?

北海道の成り立ちに起因するところもあると思いますが、地域全体として主体的に動く人が少ないという課題感は、当時から強くありました。

特に札幌は、これまでの都市開発や経済成長の多くが官主導で進められてきた背景があり、その結果として、公共事業への依存体質が地域に染みついてしまっている側面があると感じていました。

また、いわゆる支店経済の構造も大きく、規模の大きな企業であっても本社の指示のもとで動くことが多く、現場に十分な裁量がない。そうした環境の中では、「自分たちで何かを変えていく」という意識や行動が生まれにくいのではないか、という問題意識がありました。

行政に関わっていた立場としても、そうした構造を内側から実感していましたし、本当はもっと地域の中で、自分たち自身が主体となって動ける余地があるはずだと感じていました。

一人ひとりが当事者として関わり、小さくてもいいから自分たちの手で変化を起こしていく。そのきっかけとなる場をつくりたいという思いが、NoMapsを始めた大きな動機の一つだったと思います。

その課題が、NoMapsを通して変わったと感じた瞬間はありますか?

現NoMaps総合プロデューサーの五十嵐さんがディレクターとなった2023年ですね。NoMapsにとっての大きな転換期だったと思います。

1つしかなかったカテゴリーを10以上に増やして、各カテゴリーを自主運営の形にしました。すると、NoMapsという名前を使ってコミュニティやムーブメントを作ろうという動きが目に見えて増えました。

みんながNoMapsを背負うようになり、より主体的に動くようになったんだと思います。

2022年までは、新型コロナウイルスの影響もあり、オンラインでの開催を余儀なくされた部分がありました。止まってしまうような感覚や、つながりが浅くなってしまったという感覚を受けた人も多かったのかもしれません。

その反動も大きかったのかもしれないですね。社会的な情勢も追い風となりました。

NoMaps WELLNESSの様子

街への投資としてのNoMaps

そのうえで、ビジネスにおける利益と地域貢献という公益を両立させることは可能でしょうか?

基本的には街への投資としてNoMapsをやっているつもりです。

未来の札幌・北海道がプラスの価値を生み出していくために、イベントを通じてチャレンジできる環境を作っています。

NoMapsのイベントがあり、その周りでプロジェクトを走らせることができ、そこにふるさと納税を使えるという今の形は、ビジネスにとっても地域貢献にとっても確実にプラスになるツールになっているはずです。

ただ、NoMapsの良くないところは、それがNoMapsには還元されないということです。

持続可能な仕組みではない、というのは間違いなく課題としてあります。

では、利益と公益の両立について、理想的だと思う事例や形はありますか?

今年のNoMapsのイベントで一番理想的だったのは、「企業対抗カラオケ選手権」です。

ふるさと納税で集まった寄附を活用し、運営を外部の団体に委託して実現しました。
この企画の大きな意義は、行政の通常の枠組みではなかなか実現が難しいようなユニークなイベントを、税金を使って形にできた点にあります。

本来は企業に協賛してもらって開催できることがベストですが、今回はPoCとしてふるさと納税を原資としました。

結果的にイベントに関連して公開した動画の再生回数は100万回超えとかなり盛り上がり、素晴らしいコンテンツになったと思います。100万回再生されるような反響を生み出せたので、次回は企業が積極的に出資してくれるはずです。

新しいアイデアや企画の可能性をリスクを抑えて検証できるツールとしてふるさと納税を活用できたことは、素晴らしい発見だったと感じています。こうした成功事例を、もっともっと増やしていきたいですね。

PoC(Proof of Concept、概念実証)…… 新しいアイデアや技術、製品の試作品を作り、その実現可能性や効果を本格導入前に検証するプロセスのこと。

NoMaps 2.0構想が描く官民共創プラットフォーム「やりたいことをやれる街」に向けて

この10年を経て、今後NoMapsで挑戦してみたいことはありますか?

NoMapsと並行して、官民共創のプラットフォームを作ろうとしています。

これはNoMaps2.0構想でも掲げている、イベントというハレの日だけでなく、通年を通してより良い未来・社会に向かって主体的に行動するための事業体です。

「やりたいことをやれる場を作る」というのをイベント化した事業がNoMapsですが、次はそれが札幌の街全体に実装されていくことを目指しています。

みんながそういうふうに生きられる街にするために何が必要か、安定した収入や住みやすい街づくりも含めて考え、チャレンジしていくのが次のフェーズだと思います。

そのためには、NoMapsをさらに多くの人に知ってもらう必要があると思います。そういった潜在層の方に届けていくための動線設計について、考えていることはありますか?

いくつか考えがあります。

一つは短期的目線で物事を考えているビジネスにどう価値を提供するかをもっとコミットして考えることです。

今のNoMapsは、感度の高い人やわくわくすることが好きな人が勝手に参加してくれる構造になっていますが、地場の中小企業はそれほど参加していません。
そういった企業の経営者だけでなく、そこで働いている人たちも含めて、意識変容や行動変容の場になるようにしたいです。

そのためにエグゼクティブプログラムを始めました。
地場の経営者にNoMapsを知ってもらい、経営者が出てくれる場を作った上で、社員も参加するようになればと思っています。

もう一つは学校関係、子どもたちへの動線設計です。NoMapsは、多様な働き方や生き方が見られるショーケースです。子どもたちが自分の知っている大人の範疇の外にある景色を知り、そこにチャレンジすることが許されているということを体験できるようにしたいです。

具体的な例としては、全道版として働き方を紹介する冊子を毎月作りたいと考えています。道内の地方に住む子どもの多くは、職業の選択肢が制限されている。その冊子から小学校の6年間で数百の事例を知ることができれば、子どもたちが自分の未来を考えるうえで、大きなインパクトになると思うんです。

最後に、これからNoMapsに関わるスタッフや参加者に向けて、メッセージをお願いします。

やりたいことをやれる環境や資金調達の仕組みは現役世代が頑張って準備するので、まずはやりたいことを探して、そのやりたいことに向かって躊躇せず一歩踏み出してほしい。

傷つくことを恐れて足を止めるのはもったいないということを、特に若い世代の方には伝えたいです。

インタビューを終えて

インタビューを通じて見えてきたのは、イベントという枠を超えたNoMapsの本質的な価値だった。


NoMapsは単なるイベントではなく、人々が主体的にチャレンジできる環境を創出する社会実験の場なのだ。

2023年の転換期を経て、コミュニティが自らを背負うようになった変化は、その試みが確かに実を結びつつあることを物語っている。
NoMaps2.0構想が実現する未来では、この街で「やりたいことをやれる」人々がさらに増えていくことだろう。


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